2011年05月01日

ものづくり、技術、マーケティング、イノベーションを考える

 ものづくり、技術、マーケティング、イノベーションを考える「あれを買いたい。あの本が欲しい。」などという所有(have)ニーズは、移ろいやすい。Haveニーズの上位の目的であるdoニーズやbeニーズは、そうそう変わらない。
 連休中に3年先を見通した事業計画の骨子を固めることにした。このため4月下旬に、自分たちが行ってきたこと(作ってきた市場)、自分たちの技術や強みを明文化する作業をしていた。この作業で当面の自分のhaveニーズが変化していたのだろう。たくさん持っているし、けっこう読んできたドラッカーの著作の一つを見て驚いてしまった。
 その一つとは、P・F・ドラッカー『テクノロジストの条件 ものづくりが文明をつくる』ダイヤモンド社(2011年2月24日第4刷、第1刷2005年7月28日)。帯には「みずからのアイデアを夢に終わらせてはならない!イノベーションとは、天才のひらめきではなく仕事である。みずからのアイデアと知識を行動に結びつけるうえで必要な技術のマネジメントを説く。ドラッカー技術論の集大成。」と書いてある。
 “ものづくりが文明をつくる”。“みずからのアイデアを夢に終わらせてはならない!”。“みずからのアイデアと知識を行動に結びつけるうえで必要な技術のマネジメントを説く”。我々が今やっていることは、アイデアや技術をマーケティングに結びつける仕事そのもの。まさしく、この『テクノロジストの条件』は、ドラッカーのさまざまな著作の中から、自分が今取り組んでいるテーマに沿って編集し直した本だった。
 まだすべてを読んでいない。今回は目次を見て、読みたいところから読んでいった。自分の内なるニーズを確認し整理したいからである。
 読み進むうちに、今、自分たちが行っている事業活動がまさしくアイデアや技術をマーケティングやイノベーションに結びつけ、“ものづくり日本の復活”、そして日本発の技術を商品にしていく手法(キーニーズ法)を、アジアをはじめとする世界に普及していける、という確信に近いものを得ることができた。

■1日目
日本の読者へ-なぜ技術のマネジメントが重要なのか
プロローグ 未知なるものをいかにして体系化するか

【メモ】
・「大切なことは答えではなく問題である」
・イノベーションとは、未知なるものへの跳躍である。目指すところは、新たな見方による新たな力である。その道具は科学的であり、プロセスは創造的である。
・フランスの偉大な物理学者アンリ・ポワンカレは、科学上の発見に果たす直観の役割をはじめて指摘した。彼が取り上げたのは無意識かつ予見不可能なひらめきだった。
・イノベーションとは何も新しいことではない。新しいことといえば、ひらめきによって行なっていたことを体系的に行なうようにしたことだけである。そして、天才しか行なえなかったことを普通の人間が行えるようにしたことである。

Part1 文明の変革者としての技術「1章 仕事と道具」
Part2 技術のマネジメント「6章 ベンチャーのマネジメント」

【メモ】
・ベンチャーが成功するには四つの原則がある。第一に市場に集中すること、第二に財務上の見通し、特にキャッシュフローと資金について計画を持つこと、第三にトップマネジメントのチームを、それが必要となるはるか前に用意しておくこと、第四に、創業者である起業家自身がみずからの役割、責任、位置づけを決めることである。
・ベンチャーが成功するのは、多くの場合、予想もしなかった市場で、予想もしなかった客が、予想もしなかった製品やサービスを、予想もしなかった目的で買ってくれるときである。
・成長は余剰の発生ではなく、債務の発生と現金の流出をもたらす。ベンチャーは成長が健全で早いほど、より多くの資金上の栄養を必要とする。・・・ベンチャーはキャッシュフローの分析と予測と管理を必要とする。・・・ここでいう予測とは、希望的観測ではなく最悪のケースを想定した予測である。
・成功しているベンチャーは、みずからの資本構造を超えて成長する。これもまた経験則によれば、売上げを40パーセントから50パーセント伸ばすごとに、それまでの資本構造では間に合わなくなる。

■2日目
Part4 世界観の転換「13章 分析から知覚へ」

【メモ】
・コンピュータは、17世紀末のドゥニ・パパンの時代に始まった機械的世界観という分析的プロセスの究極の表現だった。コンピュータは、パパンの同時代人で友人だった数学者ゴットフリート・ライプニッツの発見、あらゆる数字はデジタルすなわち1と0で表現できるという発見に端を発していた。その後、バートランド・ラッセルとアルフレッド・ホワイトヘッドの『数学理論』(1910~1913年)が、ライプニッツの発見を論理に発展させた。その結果、データとして示すことさえできれば、あらゆるコンセプトが1と0によって表現できることになった。
・情報は分析的であっても意味は分析的ではない。知覚的である。

同「14章 知識の意味を問う」
【メモ】
・ヨーロッパも研究の成果をあげている。しかし技術格差が生じたのは、それらの研究成果を製品化し、マーケティングすることに失敗したためである。技術格差とはマネジメント上の失敗である。これこそヨーロッパにとって政府予算よりも大きな弱みである。金はつけることができる。しかし、科学上の成果を経済的な事業に転換する能力、すなわちマネジメントとマーケティングの能力を金で買うことはできない。
 現代社会は、みずからの知識の基盤として理系、文系両方の人を必要とする。特に理系のことがわかる文系の人を必要とする。専門分野や方法論しかわからない人ではなく、知識を仕事に適用できる人を必要とする。新しい知識を生み出す人だけでなく、新しい知識を日常の活動に適用できる人を必要とする。

同「15章 ポスト資本主義社会の到来」
【メモ】
・われわれがこの転換期のさ中にいることは明らかである。もしこれまでの歴史どおりに動くならば、この転換は2020年までは続く。しかし、この転換はすでに、世界の社会、政治、経済、倫理の様相を大きく変えた。

■3日目
Part3 イノベーションの方法論 「9章 方法論としての起業家精神」

・それ(技術のダイナミクスの分析)は起業家として、次のような問いかけを行なう者がよくなしうるものである。「新産業や新プロセスの機会はどこにあるか」「いかなる新技術が市場のニーズに対応して大きな経済的影響をもたらすか」「まだ経済的影響をもたらしていない新知識は何か」「産業、プロセス、生産性に反映されていない新知識は何か」「新技術を意味あるものにすることのできる、いかなる新しい見方、コンセプトが生まれているか」「それらはいかなる種類の新技術に影響を与えるか」
・あらゆる製品に二種類以上の顧客が存在するがゆえに、それらの顧客すべての観点に立つことが必要である。・・・顧客の関心は常に、この製品あるいはこの企業は自分に何をしてくれるかである。
・新しいものには、既存の市場はない。・・・新技術は新市場を必要とする。
・売上げを増やし、雇用をもたらすものは技術であるとされている。だが技術は可能性を教えるに過ぎない。可能性を顕在化させるものはマーケティングである。マーケティングによるイノベーションである。・・・マーケティングとは、技術変化を経済的に意味あるもの、欲求の満足へと転換することである。
・起業家たる者は、イノベーションのための組織をつくり、マネジメントしなければならない。新しいものを予期し、ビジョンを技術、製品、プロセスに転換し、かつ新しいものを受け入れる人間集団をつくり、マネジメントしなければならない。
・トップの仕事は、アイデアを具体的な仕事の提案に転換させることである。出てきたアイデアを正面から取り上げるに値するものにするためには何が必要かを考えることである。取り上げるわけにはいかないなどといってはいられない。

同「10章 イノベーションのための組織と戦略」
・トップの地位にある者が、アイデアを正面から取り上げることを自らの職務としている。多くの場合、優れたアイデアは非現実的に見える。優れたアイデアを手にするには、多くの馬鹿げたアイデアが必要であり、両者を簡単に見分ける手段はないことを知らなければならない。いずれもが実現性のない馬鹿げたものに見え、同時に素晴らしいものにも見える。したがって、アイデアを奨励するにとどまらず、出てきたアイデアを実際的、現実的、効果的なものにするには、いかなる形のものにしなければならないかを問いつづけなければならない。荒削りで馬鹿げたアイデアであっても、実現の可能性を評価できるところまで練らなければならない。

同「11章 既存の企業におけるイノベーション」
・しかし、この10年間広く喧伝されてきたこれらの経営戦略論の多くが、分析から自動的に行動プログラムがもたらされるとしている。これは考え違いであり、それらの経営戦略論を採用した多くの企業と同じように失望させられるだけである。分析から得られるものは診断にすぎない。その診断にさえ判断が必要である。さらには事業、製品、市場、顧客、技術についての知識が必要である。
 分析に加えて経験が必要である。高度の分析手法を手にしただけのビジネススクールを出たての若者が、コンピュータを駆使して事業、製品、市場について意思決定が行えるなどという考えはまやかしである。私がレントゲン写真と名づけたこのライフサイクル分析にしても、正しい答えを自動的に出すためのものではなく、正しい問いを知るための道具にすぎない。
・計画があって、はじめてイノベーションのための予算も立てられる。さらに重要なこととして、いかなる能力の人材がどれだけ必要となるかも明らかにできる。実績のある人材を配置し、必要な道具、資金、情報を与え、明確な期限を設けて、はじめて計画を立てたことになる。
・起業家的な企業では二つの会議を開く。一つは問題に集中する会議であり、もう一つは機会に集中する会議である。
・必要なことは測定ではなく判断である。判断といっても主観ではない。定量化できなくともよい。判断さえできれば、主観や推測ではなく知識にもとづいた行動が可能となる。
・イノベーションは小さく始め、大きく実を結ばせなければならない。しかしそのためには、そもそものはじめから、小さな特殊製品の開発や既存製品の若干の充実といったことではなく、大きな新事業を生むべきものとしてスタートさせなければならない。
・既存の企業がイノベーションを行なうことができるのは、市場や技術について卓越した能力をもつ分野においてのみである。新しいものは必ず問題に直面する。そのとき事業に通暁していなければならない。多角化は市場や技術について既存の事業との共通性がないかぎり、うまくいかない。


Posted by わくわくなひと at 20:10│Comments(6)
この記事へのコメント
レントゲン写真という名のライフサイクル分析が気になるところです。

「正しい答えを自動的に出すためのものではなく、正しい問いを知るためのの道具」

いい問いを見つけること、そして問い続けること…でしたね。
Posted by あや3あや3 at 2011年05月05日 16:36
そうなんですよ。僕なんか昔はマイケル・ポーターの「競争の戦略」を10回以上読んで、ある業界を分析した論文を書いたり、組織改革の処方箋をつくったことがある、まったくのレントゲン写真屋でした。大学の先生とか多そうですね。確かに正しい問いを知るための道具として役立ちます。しかし、正しい問いを問い続けて、実際に行動したりして、計画・実行・反省のサイクルをまわしていくのが経営ですよね。これ耳学問や読み学問の人たちへの戒めでもあるのかと、今、気づきました。
Posted by わくわくなひとわくわくなひと at 2011年05月05日 21:29
レントゲン写真…これの意味を捉えきれてないんですが、レントゲン写真屋が過去のレントゲン検査の結果から、推測と分析をしたということですか?

机上の空論みたいに捉えたらいいのでしょうか?
Posted by あや3 at 2011年05月06日 09:18
そうですね。推測と分析の後、病名が分かった。その後、どうやって治していくかという自分の判断が必要ということだと思います。病気の場合は知りませんが、経営となると治し方にいくとおりもの選択肢がありますので、結局は経営者が判断することになります。自分が経営している会社のことを年に1~2回くらい専門家に分析してもらいます。そしたら、その専門家の得意なところとそうでないところも分かってしまうし、ある分野についてはまったく素人ということさえも分かってしまいます。結局、組織のことについては経営者が責任を負うわけですから、あくまで診断は参考程度の情報で専門家以上に依頼した側が綿密に処方を描いて解決していくしかないと思います。いつもは人から依頼を受けて分析するのが生業だから、逆の立場になるのはいい経験かなと思って勉強させていただいております。机上の空論とまではいかないけど、課題発見のための参考情報ですよね。かえって混乱しました?
Posted by わくわくなひとわくわくなひと at 2011年05月06日 14:32
はい。混乱中・・・(笑)だけどコメントする私。

専門家でも得意分野とそうでない分野がある。経営者でも得意な分野とそうでない分野がある。

わくわく様はたまたま、経営者でありながら分析をするような専門家的職業もされているから面白く感じられるんじゃないでしょうか?そして、自分の持っているスキルで軌道を修正できる。

自分のスキルを磨くことで、経営にもビジネスにも役立つという利点がある。

病気が分かって、看護師だったらある程度の知識と経験で判断ができる。さらにそれについて学ぶことで、自分の病気にも、仕事にも役立たせることができる。
一方、一般庶民が病気になった場合、家庭の医学を読んで「あーだこーだ」言ってる。病気さえ治ればあとは知らん顔。

一般庶民的な感覚でマネジメントしていては、いかんっちゅうことでしょうかね?
Posted by あや3あや3 at 2011年05月06日 19:27
いやいや、スキルや知識だけでは思うようにいきませんよ。
経営戦略論で課題や戦略が分かっても、多くの企業が失敗しています。
相手は人間集団、組織ですし、競争相手、代替サービスなど、いつ足もとをすくわれるか分からない。
自分も含めて偉そうなことを言い立てて、小学生でもできることができていないことがたくさんありますよ。いろんな教えもすぐ忘れる。
それで、よくケーススタディで、学生さんが「何でこんなことができないのでしょうか」と不思議に思っていたことを思い出しました。ふつう何でと思うこともできないのです。
庶民感覚でマネジメントしていても、いかんかどうか、僕には分かりません。世の中、プロセスよりも結果だけを見たり評価するというのが現実です(学校で習う教えと逆)。うまくいったら賞賛するし、うまくいかなかったら、いろいろ言われるし倒産することもあります。
Posted by わくわくなひとわくわくなひと at 2011年05月07日 02:05
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