2010年12月03日

書くより書かないことの大切が伝わる大人の小説「切羽へ」

 書くより書かないことの大切が伝わる大人の小説「切羽へ」井上荒野『切羽へ』新潮文庫(平成22年11月1日発行)。
 帯には「直木賞受賞作!」「どうしようもなく別の男に惹かれていく、夫を深く愛しながらも。」「繊細で官能的な大人の恋愛小説。」と書いてあった。
 「明け方、夫に抱かれた。」から始まる。
 このところ女性作家を続けて読んできたため、「あ!また・・・」と思い、しばらく読むのを抑えていた。
 男性では書けないような官能小説だと思ったら、そうではなかった。“官能”をどうとらえるかだが、いわゆるエロではない。書きすぎていない。女性の揺れていく所作を繊細に描いた気品ある大人の小説だと思った。“抱かれた”という言葉を最初に読まされていたので、最後まで読んだところで、ずぅっと、“抱かれた”に引きずりこまれていた自分に気づいた。
 山田詠美は「解説」でこう書いている。
「恋に落ちる時のめくるめくような思いは描かれない。その代わりに、二人の通じ合う際の何気ない所作が丹精を凝らして選び抜かれる。性よりも性的な、男と女のやり取り。・・・全編に渡って、書くより書かないことの大切さが伝わって来る。それは、行間を読ませるというような短絡的な技巧とは違う。井上荒野さんは、書いた言葉によって、書かない部分をより豊穣な言葉で埋め尽くす才能に長けた人だ。」
 文章は小池真理子が好み。物語や登場人物は井上荒野がいい。ゆっくり話せる機会があるなら、井上さんと過ごしたいと思った。
 全編にわたり北部九州弁の会話が繰り広げられる。たぶん長崎か?書くより書かないことの大切が伝わる大人の小説「切羽へ」




Posted by わくわくなひと at 20:36│Comments(4)
この記事へのコメント
また…こういう本ですね。

>>どうしようもなく別の男に惹かれていく、夫を深く愛しながらも

私絶対読みませんよ。絶対に!
Posted by あや3あや3 at 2010年12月07日 10:31
うん。その方がいいかも。
想定があや様くらいの年代だと思いますので、人生の毒となるか薬となるか表裏一体ではないでしょうか。この小説で僕と同じくらいの年代で出て来るのは脇役のしかも脳天気な校長先生くらいでしょうか。人生の振り返り、昔の感情を思い出し若返るという意味で僕には薬でした。でも、この小説は俗に言う大人のプラトニックラブです。泉鏡花の高野聖も思いだけです。しかし、気持ちが動くということは、浮気ではなく本気のようだから、やはり毒ですね。
Posted by わくわくなひとわくわくなひと at 2010年12月07日 12:44
女って気持ちが先に動くもんじゃないです?

たぶん会わない(会えない、会わないようにしている)から美化しやすいんですよ。きっと。読んじゃうと余計美化しちゃいます。

昔みたいに真面目な本だけに集中したいんですけどね~

小人閑居して不善をなす←これ私のことですよ…
Posted by あや3あや3 at 2010年12月07日 13:33
「女って気持ちが先に動くもんじゃないです?」。確かに言われてみれば、そんな感じですよね。これは鋭い指摘だし、AHA感覚がありました。だから、これまでになかった小説、モチーフ?として直木賞をとったのでしょうか。荒野さんは男っぽい女性でしょうか。女性の“告白”というのもあまたに浮かんできました。でも、何か難しいし分からないことだらけなので、そろそろマネジメントの予習を始めます。
Posted by わくわくなひとわくわくなひと at 2010年12月07日 16:50
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