2010年09月23日
【デフレの正体】経済や不況感の常識をくつがえす本

「こ れ読んどいた方がいいよ!」と言われて、読んだ本です。私も、「読んだ方がいい」と知り合いの経営者や行政関係の人に勧めたくなりました。
まえがきにも、「これは読んだ方がいい」から始まります。うまいコピーや宣伝という話ではなく、この20年くらいの日本経済の動き、これからの日本経済の動きを理解したければ「読んだ方がいい」本です。
この本は、普通の日本人が日本経済に感じている不安の正体を、曖昧な言葉を使わず、簡単な理屈でわかりやすく仕分けします。
不安の正体、何となく先が見えないような不況感の正体は、生産年齢人口(15~64歳)が大幅に減っていることから来ているというデータを突きつけられます。つい数年前まで戦後最長の好景気が続いていましたが、ほとんどの人が好景気を実感していません。
著者は、この理由をデータに基づいて解説していきます。
その理由とは、2000年に一度と言われる「景気の波」を打ち消すほど大きい「人口の波」が、日本経済を洗っているのだ、という事実があるからと主張しています。
現在の経済の問題は、単に景気循環に伴う失業者の増減や、若者の流出だけで説明できるものではない。今世紀になっての不振の背後には失業者の増加ペースや若者の流出ペースを大きく上回る就業者数の減少があり、その背景には総人口減少のペースを大きく上回る生産年齢人口の減少がある。同時に高齢者の激増も進行していることが問題であると指摘します。
「金は天下のまわりもの」とでも言いますか、お金が世の中を広くまわっていかないと社会全体が潤いません。確かに日本のメーカーが海外から稼いでくるお金は莫大ですが、その利益や配当など果実を手にしているのは高齢の富裕層だけということです。しかも、この方々、確か14兆円という数字が出てきますが、ほとんど使われていないそうです。稼いだお金が世の中に出回らないために、国内のほとんどの人が恩恵を受けていない。世の中に広くお金がまわるためには、お金を稼ぐし、お金をよく使う、生産年齢人口の割合ではなく数が重要であることを著者は指摘しています。その数、絶対数が都市部も農村部も急激に減少していることが、2000年に一度の大問題だということです。
よほどの大手術をしないと、もう日本で好景気を経験することはできないというのが実情のようです。著者は、この状況を打開する取り組みとして、所得移転を促進させるための施策で生産年齢人口の所得を1.4倍にする、専業主婦の就労促進と女性経営者を増やすこと、国外からの観光客の誘致をあげています。それと、イタリアやフランスのようにハイテク分野に限らず、国内産業や地場産品で高価なブランドを育成すること、全世界に先駆けて経験した結果得られるノウハウを、今後、少子高齢化、生産年齢人口の急減を経験することになるアジアやインドなどに輸出することなどを提案しています。
ぬるま湯の温度が少しずつ気づかないように上がっていき、何か暮らしにくい、何か変だと思っているうちに、世の中全体が取り返しのつかない状況になっている。しかし、そうなっている原因の有力な仮説がやっと出てきたという感じです。原因が特定できれば的確な対策も進められそうですが、少数の既得権を持つ、しかも世の中に対する発言力のある富裕高齢者たちを、どこまで説得できるかが、日本の将来を左右する鍵になりそうです。
ちなみに、熊本市の生産年齢人口のピークはとっくに過ぎています。これは全国のほとんどの都市に言えることです。全国的な例外は福岡市で2010年の今が生産年齢人口のピークのようです。何となく福岡の街や経済の活気を感じるのは、こんな構造的な背景があるからかも知れません。なぜ福岡市が例外なのか、その原因は高度経済成長期にボリュームの大きい団塊の世代を他地域から吸収していないからです。東京や大阪、名古屋などは団塊の世代を広く地方から吸収した結果、この世代が現役を引退することにより、急激に衰退するとともに大きな社会問題を抱えていくことが予想されています。福岡も10~15年遅れで衰退していくことになりますが、日本で最後まで繁栄する珍しい都市になりそうです。
Posted by わくわくなひと at 11:51│Comments(0)
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