2010年02月10日

永井荷風「雨瀟瀟(あめしょうしょう)」から・・・

 その頃のことと云ったとて、いつも単調なわが身の上、別に変わった話のあるわけではない。唯その頃までわたしは数年の間さしては心にも留めず成りゆきの儘送って来た孤独の境涯が、つまる処わたしの一生の結末であろう。此れから先わたしの身にはもうさして面白いこともない代りまたさして悲しい事も起こるまい。秋の日のどんよりと曇って風もなく雨にもならず暮れて行くようにわたしの一生は終って行くのであろうというような事をいわれもなく感じたまでの事である(永井荷風「雨瀟瀟(あめしょうしょう)」)。

 中村明『名文』に引用してある文章の中で、何となく上の文が気になっています。

「此れから先わたしの身にはもうさして面白いこともない代りまたさして悲しい事も起こるまい。」

 まだそんな心境にはなっておらず、現役の経営者として後10年は「落ち込むこともあるかも知れないが、サラリーマンをやっている時と比べると格段に面白い十年にしたい」と思っています。

 しかし、30歳代や40歳代の、いわゆる将来を夢見ている人たちと話していると、「そう気負うなよ!」と思いながら、ふと自分は「もうとっくに人生の夏至は過ぎて晩秋が近づいている」と思うことがしばしばあります。

 そんな時、特に東京か何かで慌ただしい時間を過ごしている時ほど、気負いのない「秋の日のどんよりと曇って風もなく雨にもならず暮れて行く」ような心境に憧れてしまいます。




Posted by わくわくなひと at 19:31│Comments(0)
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