2009年12月23日
「東アジア共同体」を巡る中国各紙の論調を特集・・・URC
昨日は佐賀市役所に所要で行くことになり、JRを利用した。
日ごろは博多・熊本間の「リレーつばめ」に乗ることが多いが、今日の往路は「かもめ」、復路は「みどり」という特急に乗った。
まず、車内の椅子やデザインの違いに目を見はった。「かもめ」の椅子は革製でなかなか贅沢。客車内の前方では小さなランプのような灯りが室内を照らしている。車窓からは弥生時代の住居や櫓などを再現した吉野ヶ里遺跡や雪化粧した天山も見えて、見慣れない佐賀平野の景色も楽しんだ。
車中では、福岡アジア都市研究所(Fukuoka Asian Urban Research Center)の季刊「中国動向」(2009年12月)と「韓国動向」(同)を読むことにした。この二つの小冊子は、中国や韓国などの新聞記事の論説を日本語に翻訳して載せている。日本の新聞やテレビと違った視点を読むことができるので、非常に新鮮。この手の冊子を読んでいると、ひょっとしたら、今の日本でふつうに手に入る情報は、ほとんどがアメリカ経由かも知れないと、つい思ってしまう。
今回の「中国動向」は、「東アジア共同体」に関係する論説を8本載せていた。鳩山政権となり、確かに新聞で「東アジア共同体」という言葉が数多く載っていたことを記憶している。しかし、「内容や視点はほとんど変わらないだろう」という思いこみがあり、せいぜい見出しやリードくらいしか読んでいない。
たまたま学生の時に日本近代史の初歩的なことを専攻していたので、正直「東アジア共同体」と聞いて「大東亜共栄圏」が私の頭の中で浮かんでいた。それ以来、かつて戦場となったアジアの人々は「東アジア共同体」と聞いて、どのような反応を示しているのか気になっていた。
「中国動向」を読んでみると、そのような感傷的な反応ではないことが分かった。世界の認識の仕方がアメリカ一辺倒ではなく、アジア、ロシア、欧州、アメリカなどのパワーバランスの中での中国のあり方や日本への対応を考えていることがうかがえた。それと、日本へのアメリカの対応がかなりなまめかしく書いてあることに驚いた。
「アメリカの力の衰えと中国の台頭。その中で翻弄される日本であり、気づかないうちに世界の情勢が大きく変化してきているかも?」。そう思って22日付けの佐賀新聞を読んでいたら、フランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏の「米国後の世界に適応を」というインタビュー記事が載っていた。特に注目したのは、以下の通りである。
・日本への忠告は「もはや米国優位の世界をあてにするな」。
・「その日本がいま置かれている地政学的状況は極めて厳しい。日本がどう思おうと、米国の圧倒的な優位は崩れだしている。隣には、巨大な中国がある。日本は安全維持の問題を抱え込むことになる。自分自身でその解決方法を見つけなければならないだろう」
このエマニュアル氏と中国の新聞各社の世界観は、似ていると感じてしまった。ただし、日本と中国の場合は隣国であり、確かに安全維持の問題は非常に神経質で難しいことになっていきそうな感じがしている(私が心配するようなことではないが)。
「韓国動向」は「中国動向」と比べると、超高層マンションの話や福岡-釜山超高域経済圏など “平和”な内容である。特に、「この地域(釜山・福岡)は北京、上海、香港、東京、大阪、ソウル首都圏に継ぐ北東アジア7大超広域経済圏として跳躍することが期待される」という記事にはわくわくさせられた。
釜山と福岡は、日本のどの都市よりも密接に交流をしており、実質的な経済交流のステップに入ろうとしている。釜山・福岡市共催のオリンピックでも実現すると、この動きがもっと加速すると思うのだが、どうなることやら。
「中国動向」で私がメモした内容は、以下の通り。
・小泉氏の「東アジア共同体」概念に対し、アメリカの国会や政治学者等からは疑問視する考えが表明されており、民主精神を欠落し、アメリカ主導の東アジア秩序に対して挑戦するものであるとしていた(2009年10月19日「第一財経日報」)。
・2006年中頃、ブッシュ政権は「APEC自由貿易区域」構想を打ち出し、APEC範囲内ではいかなる形のFTAをも容認するとしたが、日本との協議だけは拒んだ(同)。
・この事実は世界のほとんどのマスメディアに注目されなかったが、実に奥が深い。アメリカの反対がなければ、日本は予想通り開催国(G20サミット)としての地位を手にできたはずだ。これは、アメリカが咄嗟の間に日本に発した警告そのものだった。ターゲットは、日本が提唱した「東アジア共同体」構想だった(2009年9月28日「世界新聞報」)。
・米欧間の競争が激化し、中国の態度がはっきりしない中、アメリカの最も必要とするものが日本の絶対的な「忠誠」である。しかし、インド洋でのアメリカ軍への給油活動の中止決定から、東アジア共同体構想の提唱まで、人々には、日本人が世界情勢の変化を察知し、今がアメリカから部分的に離れるよい機会だと判断しているように見える(2009年9月28日「世界新聞報」)。
・鳩山首相が10月の国連総会において、東アジア共同体構想を発表した後、アメリカの高官がすぐさま日本に対し、この構想に反対の立場を表明した。これに対し、鳩山首相は、「東アジア共同体はアメリカを排除するものではない」との意を表した(2009年10月28日「中国日報」)。
・圧倒的得票数で政権を獲得した民主党が日本の政治、経済、外交について一連の改革を行っている中、メディアを通して日本の政治を見るならば、まるで民主党政権が危機に立たされているように思わずにはいられない。発行部数が1千万部を超える保守系新聞「読売新聞」は、最近、民主党幹部の金銭面でのスキャンダルを連日報じている。また、中道左派系世論(?筆者註)の拠り所となっている「産経新聞」は反民主党の急先鋒となってしまった。さらに週刊誌の誌面やインターネットのニュース欄には、民主党にとってマイナスの記事で溢れている(2009年10月26日「新華社・瞭望東方周刊」)。
・自民党政権時代も同じようにやってきたにもかかわらず、その時は反対の声は余り多く聞かれなかった。しかし、同じ考えでありながら、民主党政権になると、一部の大手新聞が、10月11日に突如この共同体構想はアメリカを排除するものであり、鳩山内閣の「脱米入亜路線」に向けた一歩であると報じたのである(同)。
日ごろは博多・熊本間の「リレーつばめ」に乗ることが多いが、今日の往路は「かもめ」、復路は「みどり」という特急に乗った。
まず、車内の椅子やデザインの違いに目を見はった。「かもめ」の椅子は革製でなかなか贅沢。客車内の前方では小さなランプのような灯りが室内を照らしている。車窓からは弥生時代の住居や櫓などを再現した吉野ヶ里遺跡や雪化粧した天山も見えて、見慣れない佐賀平野の景色も楽しんだ。
車中では、福岡アジア都市研究所(Fukuoka Asian Urban Research Center)の季刊「中国動向」(2009年12月)と「韓国動向」(同)を読むことにした。この二つの小冊子は、中国や韓国などの新聞記事の論説を日本語に翻訳して載せている。日本の新聞やテレビと違った視点を読むことができるので、非常に新鮮。この手の冊子を読んでいると、ひょっとしたら、今の日本でふつうに手に入る情報は、ほとんどがアメリカ経由かも知れないと、つい思ってしまう。
今回の「中国動向」は、「東アジア共同体」に関係する論説を8本載せていた。鳩山政権となり、確かに新聞で「東アジア共同体」という言葉が数多く載っていたことを記憶している。しかし、「内容や視点はほとんど変わらないだろう」という思いこみがあり、せいぜい見出しやリードくらいしか読んでいない。
たまたま学生の時に日本近代史の初歩的なことを専攻していたので、正直「東アジア共同体」と聞いて「大東亜共栄圏」が私の頭の中で浮かんでいた。それ以来、かつて戦場となったアジアの人々は「東アジア共同体」と聞いて、どのような反応を示しているのか気になっていた。
「中国動向」を読んでみると、そのような感傷的な反応ではないことが分かった。世界の認識の仕方がアメリカ一辺倒ではなく、アジア、ロシア、欧州、アメリカなどのパワーバランスの中での中国のあり方や日本への対応を考えていることがうかがえた。それと、日本へのアメリカの対応がかなりなまめかしく書いてあることに驚いた。
「アメリカの力の衰えと中国の台頭。その中で翻弄される日本であり、気づかないうちに世界の情勢が大きく変化してきているかも?」。そう思って22日付けの佐賀新聞を読んでいたら、フランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏の「米国後の世界に適応を」というインタビュー記事が載っていた。特に注目したのは、以下の通りである。
・日本への忠告は「もはや米国優位の世界をあてにするな」。
・「その日本がいま置かれている地政学的状況は極めて厳しい。日本がどう思おうと、米国の圧倒的な優位は崩れだしている。隣には、巨大な中国がある。日本は安全維持の問題を抱え込むことになる。自分自身でその解決方法を見つけなければならないだろう」
このエマニュアル氏と中国の新聞各社の世界観は、似ていると感じてしまった。ただし、日本と中国の場合は隣国であり、確かに安全維持の問題は非常に神経質で難しいことになっていきそうな感じがしている(私が心配するようなことではないが)。
「韓国動向」は「中国動向」と比べると、超高層マンションの話や福岡-釜山超高域経済圏など “平和”な内容である。特に、「この地域(釜山・福岡)は北京、上海、香港、東京、大阪、ソウル首都圏に継ぐ北東アジア7大超広域経済圏として跳躍することが期待される」という記事にはわくわくさせられた。
釜山と福岡は、日本のどの都市よりも密接に交流をしており、実質的な経済交流のステップに入ろうとしている。釜山・福岡市共催のオリンピックでも実現すると、この動きがもっと加速すると思うのだが、どうなることやら。
「中国動向」で私がメモした内容は、以下の通り。
・小泉氏の「東アジア共同体」概念に対し、アメリカの国会や政治学者等からは疑問視する考えが表明されており、民主精神を欠落し、アメリカ主導の東アジア秩序に対して挑戦するものであるとしていた(2009年10月19日「第一財経日報」)。
・2006年中頃、ブッシュ政権は「APEC自由貿易区域」構想を打ち出し、APEC範囲内ではいかなる形のFTAをも容認するとしたが、日本との協議だけは拒んだ(同)。
・この事実は世界のほとんどのマスメディアに注目されなかったが、実に奥が深い。アメリカの反対がなければ、日本は予想通り開催国(G20サミット)としての地位を手にできたはずだ。これは、アメリカが咄嗟の間に日本に発した警告そのものだった。ターゲットは、日本が提唱した「東アジア共同体」構想だった(2009年9月28日「世界新聞報」)。
・米欧間の競争が激化し、中国の態度がはっきりしない中、アメリカの最も必要とするものが日本の絶対的な「忠誠」である。しかし、インド洋でのアメリカ軍への給油活動の中止決定から、東アジア共同体構想の提唱まで、人々には、日本人が世界情勢の変化を察知し、今がアメリカから部分的に離れるよい機会だと判断しているように見える(2009年9月28日「世界新聞報」)。
・鳩山首相が10月の国連総会において、東アジア共同体構想を発表した後、アメリカの高官がすぐさま日本に対し、この構想に反対の立場を表明した。これに対し、鳩山首相は、「東アジア共同体はアメリカを排除するものではない」との意を表した(2009年10月28日「中国日報」)。
・圧倒的得票数で政権を獲得した民主党が日本の政治、経済、外交について一連の改革を行っている中、メディアを通して日本の政治を見るならば、まるで民主党政権が危機に立たされているように思わずにはいられない。発行部数が1千万部を超える保守系新聞「読売新聞」は、最近、民主党幹部の金銭面でのスキャンダルを連日報じている。また、中道左派系世論(?筆者註)の拠り所となっている「産経新聞」は反民主党の急先鋒となってしまった。さらに週刊誌の誌面やインターネットのニュース欄には、民主党にとってマイナスの記事で溢れている(2009年10月26日「新華社・瞭望東方周刊」)。
・自民党政権時代も同じようにやってきたにもかかわらず、その時は反対の声は余り多く聞かれなかった。しかし、同じ考えでありながら、民主党政権になると、一部の大手新聞が、10月11日に突如この共同体構想はアメリカを排除するものであり、鳩山内閣の「脱米入亜路線」に向けた一歩であると報じたのである(同)。
Posted by わくわくなひと at 16:52│Comments(0)