死ぬまでに読みたい松丸本舗にある本リスト

わくわくなひと

2010年11月23日 20:57

「今の書店は、身体の記憶力を軽視してシステムとしての効率性を重視するあまりか、画一的な本の並びになっていますね。それでは頭の中まで単純化させるようで僕は不満だった。松丸本舗はそうしたことへの挑戦です。」
(雑誌「松丸本舗の挑戦 松岡正剛の書棚」より)

 ベストセラーもたまには読むが、本はそれだけではない。売れ筋ばっかり並べた本屋さんは刺激が少ない。確かに“「知」のアドレス”というのがあるような気がする。
 松岡正剛の書棚を見て、読みたい本や再読したい本がかなりあり、それをリストとして残しておきたくなった。
 ◎は仕事で必要、☆はできるだけ早く読みたい本

■日本文学の傑作
☆折口信夫『死者の書』中央公論社・・・驚嘆すべき魂の想像力
☆足穂『弥勒』
・中島敦『山月記』
☆夢野久作『ドグラ・マグラ』
☆夏目漱石『草枕』『夢十夜』
・幸田露伴『連環記』
☆大岡昇平『野火』旺文社文庫・・・人間を喰う“常識の鬼気”を活写
・野上弥生子『海神丸』

■行きずりにこそ込められる世界の真実
・プルースト『失われた時を求めて』
・チャールズ・ブコウスキー『町でいちばんの美女』
・レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』
・山頭火『山頭火全句集』
・上田三四二『短歌一生』・・・短歌は実は日本語という船の底が転覆しないためのバラストの重り

■科学の物語で遊び、科学の想像を楽しめばいい
・寺田寅彦『寺田寅彦全集』・・・科学的観察を味のよい文章で表現
・ライプニッツ『ライプニッツ著作集』
◎ヴィーゴ『新しい学』・・・「クリティカ」(判断の方法)と「トピカ」(発見の方法)を作った。その二つをフーガのようにぐるぐる回転させながら、思想を形作る。
◎ヘルマン・ワイル『数学と自然科学の哲学』・・・二つの物をぴったり重ねても、それは創発にならない。そこにはクリエイティビティがない。むしろ少しずれているけれども似ている、そういう相似性について考えていくのが重要
◎ホワイトヘッド『過程と実在』・・・「ある」(実在)と「なる」(過程)の間を歩き続けた。「ある」(有)と「ない」(無)ではなくて、「ある」と「なる」。「なる」とは、生成の構造であり、編集の方法であった。
・岡潔『春宵十話』・・・既存の数学で表せないものにこだわる。「春の宵」は、数学では表せない。けれでも岡は惹かれてしまう。
・ハイゼンベルク『部分と全体』・・・「全体は部分の総和ではない」という、単純な足し算では見えてこない非線形な世界がひらひらと見えてくる。
・ブライアン・グリーン『エレガントな宇宙』『宇宙を織りなすもの』・・・宇宙論を読むというのは、その人類最大の超難解すらもがコトバになっていることに驚く。
・エルンスト・マッハ『感覚の分析』法政大学出版局・・・生理学と物理学はこの本でつながった

■最も謎に満ちた生命と生物学
・ダーウィン『種の起源』・・・世界を変えたベスト10のうちの一冊
◎シャスティン・モベリ『オキシトシン』・・・脳科学の限界が見えてくる
◎ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』・・・賭け事をしたくなる(アレア)、競争したくなる(アゴーン)、自分で目眩を起こしたくなる(イリンクス)、何かの真似をしたくなる(ミミクリー)。この四つの遊びの行為が、人間の本質であり、生物が求めてきたものだと説いた。

■デジタル社会を活版印刷で大予測
☆白川静『漢字の世界』・・・漢字は一個の方形の宇宙であって、それ自体が霊魂であるような模型である
・宮城谷昌光『沈黙の王』・・・甲骨文字の原型は70年ほどの短い間に一気に作られた。「話すと消える言葉」ではなく「目に見える言葉」を作ろうとする話。
◎マーシャル・マクルーハン『グーテンベルクの銀河系』・・・デジタル社会を迎えるわれわれの知らなければならないことの半分くらいが、知的に暗示されている。

■システムとは物事の見方を組み合わせた編集装置
◎チャールズ・パース『パース著作集』・・・「帰納」と「演繹」以外に、アブダクション(仮説形成)を設定。最初に仮説を立て、その仮説の下で推理する方法を提唱。
◎ジェームス・ギブソン『生態学的視覚論』・・・アフォーダンス理論を説く。前方から人が歩いてくるのを「見る」。その時に、われわれはその自分が自分を襲うかもしれないとか、きれいな服を着ているなと思いながら、「見る」。つまり、単なる物体が向かってくると知覚するのではなくて、必ず自分との関わりとともに「見る」。
◎フーコー『狂気の歴史』・・・心理学は正気と狂気、正常と異常を分けようとした。しかし、古代に遡れば、シャーマンやアニミストはみな狂気だった。狂気は近代社会の発明に過ぎないのではないか。
◎マイケル・ポラニー『個人的知識』・・・人間は外部化された知識だけではなくて、その人の個性や人生観や世界観という「外部からは見えない暗黙知」に支えられている。逆に言えば、その「見えない暗黙知」をつなげていくことで、これまでには見えなかった創造性に導けるはずだとする。

■個人の奥に「他者」を生んだ東洋の宗教
・道元『正法眼蔵』・・・日本語訳でもいいから、どうしても座右に置きたい。眼が洗われる。
・五木寛之『親鸞』

■近代ヨーロッパの最高峰の文学
・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』・・・神は人を裁けるのか
☆ジョセフ・コンラッド『闇の奥』・・・人間を惹きつけるあらゆる価値観は神と富とを入れ替えるのではないか

■革命とは常に裏切られるもの
・ニーチェ『ツァラトストラかく語りき』・・・一切のヨーロッパ思想の矛盾、限界、嘘を暴く

■根こそぎでものを考える
・レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』・・・西洋の知で世界を見るな
・シモーヌ・ヴェイユ『根をもつこと』・・・根こそぎでものを考えることがどういうことか伝わってくる
◎スーザン・ソンタグ『反解釈』・・・誰もが「そうだよな」と思うその向こうに、さらにそうではない考え方が潜んでいることを喝破

■明治維新の本当の意味
☆大佛次郎『天皇の世紀』・・・明治維新が何であるかがわかる
☆松本健一『開国のかたち』・・・明治維新の本当の意味も読めてくる
☆内村鑑三『代表的日本人』・・・日蓮、中江藤樹、上杉鷹山、二宮尊徳、西郷隆盛の五人の影響を受けてイエスに導かれる
☆宮崎滔天『三十三年の夢』岩波書店・・・宮崎滔天ほどスケールの大きい日本人は珍しい

■敗戦を考える
☆井伏鱒二『黒い雨』

■隣国
・金達寿『朝鮮』岩波新書・・・朝鮮の民族文化史を通暁。安易な隣国意識と協調主義を警戒する著者の目が効いている。

■剣と禅が結ばれて、日本の礼と美学が浮かび上がる
☆熊倉功夫校訂解説『南方録』・・・日本の礼、作法、間、そして引き算の美学が見えてくる
☆岡倉天心『茶の本』・・・かつて日本人が綴りえた最高級のイメージ・コスモスの本
☆世阿弥『風姿花伝』・・・最高の芸能スキルブック

■日本を知る方法
・九鬼周造『「いき」の構造』・・・失敗から滲み出てくる「悲しみ」や「はかなさ」を哲学
・深田久弥『日本百名山』新潮社・・・どう見ればいいのか、どう感じればいいのか。自然に接したときの助け
・俳句歳時記・・・歳時記は最低二冊は手に入れたほうがいい

■女性を描く
・『とわずがたり』・・・王朝期の二条という女性による切ない文芸。男に翻弄されながら妖しく悩む女心
・トルストイ『アンナ・カレーニナ』・・・ドストエフスキーが「こんな完璧な小説はない」と驚いた
・ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』・・・これを読まずして、現代の恋愛小説を語れようか