金子光晴「だめなら僕はせめて、石鹸になりたいよ」
天神から熊本に向かうバスの中で
金子光晴詩集『女たちへのいたみうた』の3分の2くらいを読みました。
もう熊本・福岡間を何十往復したでしょうか。バスにも慣れたのでしょう。本を読んでも気分が悪くなりません。見られようによっては、バスの中でオヤジが詩集を読んでいるのも変かも知れません。
金子光晴。すごいじいさんです。読んだといって何の足しにもなりませんが、こんなジイサンが日本にいたということがおもしろいですね。
おもしろいとか、これはいいと思った内容の一部を紹介します。
夜もすがら山鳴りをききつつ、
ひとり、肘を枕にして、
地酒の徳利をふる音に、ふと、
別れてきた子の泣声をきく。
万人が戻ってくる茶漬けの味、風流。神信心。
恋人よ。
たうとう僕は
あなたのうんこになりました。
はじめてのやうに、僕は空をみた。
人が帽子をかぶるやうに
気にもとめず頭にのせてゐた
その青空を。
君の恋人になりたいな。だめなら僕は
せめて、石鹸になりたいよ。
・・・
君にとって、どうせ僕なんか、
石鹸ほどにも気にも止めぬだらう。
蛞蝓(なめくじ)のやうなものをつかんで、
君はおどろきの叫びをあげる。
『なんてこの人小さくなったんだろう』