確かに最高に面白い本大賞。が、リアルさに欠ける「永遠の0」
寝る前にちびりちびりとですが、読んでしまいました。解説まで含め589ページありました。
百田尚樹「永遠の0」講談社文庫。
1956年生まれの作家。つまり、昭和31年、戦争が終わって11年経って生まれ、高度経済成長の中で育った作家が見事に太平洋戦争を描いていました。
私も、この辺りは相当詳しいと自負していますが、このへんの記述はおかしいとか、間違っているとか、思うところはありませんでした。たぶん、このテーマが浮かんだ後に、戦争のことをたくさん調べたこととは思いますが、それ以前に、戦争に関する相当な知識と情報を持っていないと書けないほどの内容でした。
映画監督のスピルバーグは、たぶん少し上の年齢だと思いますが、父親が太平洋戦争の時のパイロットであり、彼は子どものころから自前で戦争映画を作っていたと聞いています。戦争を知らない世代が戦争を描く。やっと日本でも、そんな作家が出てきたんだなぁと思いました。
一つだけ欠点を言えば、リアルさを感じることができませんでした。10年くらい前から、けっこう流行っている歴史のシミュレーション小説を読んでいるような感じでした。この小説と比べ、スピルバーグの映画、例えば「プライベート・ライアン」は残酷なほどリアルで悲惨な場面が散りばめられているが、名も無き人の思いを黒澤明風に描いた内容でした。
この違いは「何だろう」と思いました。特攻隊をテロリストと同一視する新聞記者が出てきます。戦争や戦争に関わった人を、単純に上から目線で批判する人たちへの疑問を、この作家は持っているようです。これには同感します。しかし、作中人物のやり取りにリアルさを感じません。
死や特攻を強制されるような中で主人公とおぼしき人は、「自分は生き残る」ということを公言して終戦直前まで生き抜き、最後は特攻します。むしろ、自分は生き残りたいと思いながらも、そんなことは言えず、思い悩みながら死んでいった人の心の内を知りたいと思いました。
児玉清さんが「僕は号泣するのを懸命に歯を喰いしばってこらえた。が、ダメだった。」と書いています。感受性が乏しいのか、私はそんなことはありませんでした。
若い人が戦争に興味を持った時に読む入門書としては、秀逸だと思います。しかし、残念ながら作家と同じ時代に、年配の人からリアルで、グロテスクで、残酷かつ悲惨で、生き残るための闘争のような話をたくさん聞いて育った自分には今ひとつの内容でした。