5月30日付け。つまり、今日の熊本日日新聞は読むところがたくさんありました。
日々の時間的な余裕、問題意識にもよりますが、「きょうは、いっちょん、面白かところはなかばい!」と思うこともあります。テレビ欄は、ほとんど毎日、こんな感じです。
今日付けの西日本新聞、日本経済新聞も眺めました。3紙とも32ページ。今日の西日本新聞は切り抜くような記事はなし。日本経済新聞は、仕事上関係ある「高齢者の安否見守りお任せ 民間サービス多彩に」(7段の記事)を切り抜きました。
熊日新聞はどうかというと、たまたま波長が合ったのか、32ページのうち10ページ程度は釘付けになりました。日曜版を充実させるという意図でしょうか?私が生きていく上で無視できない記事が次々と掲載されていました。
具体的には、以下の通りです。個人的な備忘録にするため、長文になりました。
■1面「発進!2011九州新幹線(第5部) JRの戦略① ターミナルの開発」
・熊本駅の出口名をJR九州が決定したころから、JR九州がどのようなことを考えているか気になってきました。公共交通といえども企業であることから意思決定には市場原理が大きな影響を及ぼすことと思います。社会や地域に貢献することが企業の使命でもありますが、市場原理の中で熊本がどう位置づけられ、どのような駅周辺の開発が進んでいくのか。今日の記事で、「重点投資は博多、鹿児島へ」など、おおよそのJR九州の戦略イメージが見えてきたような気がしました。福岡と熊本の境界人の私が言うのも僭越ですが、JR九州や他の大手資本に対し、熊本をいかに魅力的に見せていくか。熊本側の動きや価値観を示す必要がありそうです。
※この記事と呼応するかのように、16と17面の見開きで熊本のリーダーの方々のインタビュー広告が掲載されています。ほとんどの人が九州新幹線に言及しています。
■6面「サンデー特報 「区バス」導入3年・・・見直し進む新潟市 利用低迷、不採算で路線半減」
・熊本市にとって人口減少・高齢社会の中での都市交通、公共交通の再構築は重要な課題と思います。福岡の天神、博多、小倉などと比べて、公共交通機関が感覚的に非常に使いにくいし、便利な乗り物は自動車しかないというのでは政令市としては困りものです。熊本市が政令市移行に合わせ、区役所へのアクセス改善策として「区バス」の導入を表明しており、熊日の記者が先進事例の新潟市の事情をレポートしています。5年、10年、20年先を見据えた総合的な交通政策と戦略が欲しいところです。熊日の記者の方々にも、こういった地域課題にどんどん入ってきてもらいたいと思います。熊本市あたりの計画策定委員会などにも最初から最後まで傍聴されると、いろんな地域課題のネタがあると思います。
■7面「くまにち論壇 熊本大学文学部の徳野貞雄教授 人口増加型モデルからの脱却」
・人口増加型発展モデルから人口減少型パラダイムへの転換をうったえています。これは熊本だけでなくどの地域も、そして企業も考えなければならない課題です。行政関係でも「人口減少社会の経営」についての具体的な議論がそうとう行われています。「では、どうするか。」について、徳野教授のご意見をもっと具体的に聞いてみたいと思いました。この文章を読んで、数ヶ月前にメーリングリスト仲間で「ぜったい面白い。一気に読んでしまった」など反響を呼んだ本をつん読していることを思い出しました。以下の本です。
・岡田知弘『地域づくりの経済学入門 地域内再投資力論』自治体研究社
■8面「文学への扉 5月 藤沢周」
・「なぜ、私はここにあるか。なぜ、自分は自分なのであろうかと。」「自己なる「謎」をさまざまな手法で巡る作品群が今月も光る。」として、紹介しています。本屋ででも見かけたら、買い置きしたいと思いますので、リストにしました。
・夢野久作『ドグラ・マグラ』・・・「すべての近代小説は探偵小説である」とした奇怪なる大長編
・東浩紀『フォンタム・ファミリーズ』新潮社、第23回三島由紀夫賞・・・「量子家族」という意で、核家族にすらならない家族をシミュレートして描く。
・浅川継太「朝が止まる」『群像』6月号、群像新人文学賞・・・主人公がある女性をストーキングしながら後方視覚を得てしまうという突拍子もない設定。つまり、自らの後ろが見えてしまうのである。追われる女の方も同じだとしら、自分自身も見られていることになる。見るとは何だ?ここにあるとは何だ?
・フランツ・カフカ『変身』・・・「謎」が「謎」のままという不条理の祖。「カフカを読むことは、見慣れた広い道を捨てて、まだ道がない見知らぬ森の中へと入っていくようなもの」(イ・スンウ)。
・イ・スンウ「ナイフ」『新潮』6月号・・・カフカに影響を受けた作品群を書き続けている作家による“父殺し”の短編。
・島田雅彦「死都東京」同・・・「都市」というテーマのもと、死後、「昭和」の時代にワープする。
・蘇童「香草営」同・・・勤める病院脇の貧民窟に逢い引きのための部屋を借りる医師と大家の男との何気ないやりとりの裏に、人なるものの「謎」が張りついていて、あいさつ程度のフレーズにさえ恐怖を覚えてしまう。
・広小路尚祈「塗っていこうぜ」『すばる』6月号・・・元ヤンキーの兄ちゃんたちが寂れた町のシャッターを茶色に塗っていく愚かさと悲哀が、文学の死角を突くチャールズ・ブコウスキーばりの筆致で読ませる。
・高沢秀次「百年後の大逆事件」『文学界』6月号・・・あの時代の血糊を乾かせず、現在の文学が引き継がねばならない必然を抉りだして秀逸。
■8面「葭の渚 石牟礼道子 第2部⑭」
・石牟礼さんの自然、子供心、自然と一体となった昔の人の思いを、やまとことばで綴っていく文章には驚くばかりです。「ただの茨だと思っていた蔓草が、木いちごの蔓にかわっていて、それを引っ張ると、山の地肌の深いにおいがして、真っ赤に熟れた山いちごが行く先々の草の陰に光っていた。」。自然の描写もさることながら、“山の地肌の深いにおいがして”の一文で私の嗅覚が刺激され、子どもの頃、里山で遊んでいたころの記憶が蘇りました。「禁断の道をゆくのに似て、」「お供え物に手を出したような気分」「神域を護る草の兵隊の大軍」「かみなりさま方の大会議」・・・。自然にも魂の存在を思う日本人ならではの文章を楽しませてもらいました。
■9面「本を歩く 髙山文彦 長期の記録と執筆 かくも強靱な意志」
・今年の大宅壮一ノンフィクション賞である、上原善宏『日本の路地を旅する』(文藝春秋)と川口有美子『逝かない身体』(医学書院)の書評。「上原氏は10年、川口氏は12年、ものすごい時間と労力と金銭を費やしている。ここに慢心と怠惰など、つけいる隙がない。ノンフィクション作品を仕上げるまでには、かくも持続する強靱な意志力が必要なのだ。ネットで買い物をするようになった人間は、手間暇を惜しむ。結論をすぐに欲しがるのだ。でもこの著者ふたりは、結論を求めて書き出したのではない。結論は見事に放棄されている。そして見事な森が生まれている。」。
■9面「読んでくれますか? えのきど いちろう 他人の人生に目を向ける」
・「ずーっと自分だけ、自分の苦しさだけを見つめる時間はしんどいですよ。僕はそんなとき、最高の休息は「他人の人生」を見つめることだと思っている。・・・それは実は小説を読むことなんですね。」
・米原万里『オリガ・モリゾウナの反語法』集英社
■10面「北川フラムが読む 外資が買いあさる地下水資源」
・本の書評だと思って読み進むうちに、「これは熊本の地域社会にとって大事件」が書かれていることに気づきました。平野秀樹・安田喜憲『奪われる日本の森 外資が水資源を狙っている』新潮社の書評です。元林野庁の企画マンと環境考古学の研究者の共著ですが、「2020年に人類の3分の2にとって水不足が深刻になる。その為に日本の周辺の国々を中心として日本列島の豊かな水資源に目をつけ、その水資源が狙われだしたのだ。」と書いてありました。日本列島といってもどこかよその話と思っていたら、「熊本も売買が全国で五指に入り、阿蘇久重が要注意とのこと。熊本市は地下水に100%依存する人口では最大の自治体だ。」。そう言われてみれば、一年くらい前に福岡で世界的な水道会社の人と会ったことがあります。ちょっとただごとではないと思いますが、いかがでしょうか。これは書評ではなく、地域社会のために熊日さんに頑張って取材してもらい報道していただきたいと思います。行政の環境関係の審議会でも重要事項ではないでしょうか。
■10面「ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社 坂本光司著」
・この一月余り気になっていた本です。自分たちの会社が目指すべきヒントが書いてありそうな感じです。「人を助け、幸せにし、人に喜ばれる仕事をしている」企業。「本書は、そうした尊敬される8企業を取り上げて、それらの企業がなぜ評価されるのか。そこにはどんな企業の物語があるのかを分かりやすく紹介している。それらを読むと、人間の“心に響く経営”とはこのことかと、目からうろこが落ちるように気付かされる。」そうです。
ダイヤモンド社、1,500円。総務部長さん。やっぱ会社や社員のために、こうちゃり!